前回の記事では、ブリリアスが考える学習支援の基本についてお伝えしました。学習のつまずきの背景にはさまざまな要因がありますが、今回はその中でも特に誤解されやすい学習障害(LD)、とりわけ読み書きの困難さについて取り上げます。
学習障害(LD)とは
学習障害とは、全体的な理解力から想定されるよりも、読み書きや算数といった特定の力だけが極端に苦手な状態のことです。医学的な診断名としては「限局性学習症」などと呼ばれます。
ブリリアスでは、厳密な診断名としてではなく、「全体的な力に比べて、読み書きや算数が局所的に苦手」という状態を表すために、あえて「学習障害」という言葉を使っています。診断がついているかどうかにかかわらず、こうした困難さを抱えるこどもは支援を必要としているからです。
読み書きの場合は文字をスムーズに読めない、書くのにとても苦労するといった形で、算数の場合は数の概念が定着しにくい、文章題で式が立てられないといった形で現れます。背景には、目で見た情報や音の処理、脳が動作を「自動化」する働きの弱さなどがあると考えられています。
なお、知能検査としてよく知られるWISCでは、学習障害そのものを調べることはできません。読み書きの困難さを把握するには、それに特化した評価が必要です。
なぜ気づかれにくいのか
学習障害が理解されにくい大きな理由は、まったくできないわけではないことにあります。
読み書きが苦手な子も、がんばれば読めますし、がんばれば書けてしまいます。そのため周囲からは「練習が足りない」「集中していない」「やる気がない」と見えてしまうことがあります。
でも実際には、文字を読むことに脳の力を大量に使ってしまい、内容が頭に入ってこないということが起きています。書くことも同じで、文字を書くことだけで精一杯になり、考える余裕がなくなってしまうのです。
周りの子と同じようにやっているつもりなのに、自分だけうまくいかない。がんばっても結果が出ない。そんな経験が積み重なると、こどもは「自分はダメなんだ」と感じ、学習そのものを避けるようになってしまいます。困難さそのものと同じくらい、この自信の低下が大きな問題になります。
こんな様子はありませんか
たとえば、音読がたどたどしく、練習してもなかなか上達しない。読んだはずの内容を覚えていない。行を飛ばして読んでしまう。「文字が動いて見える」と言う。書けないわけではないけれど、書くととても疲れる。漢字をどうしても覚えられない。板書を写すのが間に合わない。宿題に毎日何時間もかかっている。
こうした様子が見られる場合、読み書きのどこかに負担がかかっている可能性があります。
もちろん、当てはまるからといって必ず学習障害というわけではありません。視力の問題や、学習の積み残し、心理的な要因など、ほかの理由が隠れていることもあります。気になる様子が続くときは、一度詳しく評価してみることをおすすめします。
読み書きは、たくさんの機能のリレー
実は、人間の脳には「読み書き専用」の機能はありません。いくつもの機能を組み合わせて、読み書きを実現しています。
読むときには、まず「読みたい」という気持ちがあり、文字が目に入り、目で文字を追い、脳でその文字を音に変換し、音のまとまりを言葉として理解し、最後に文や文章全体の意味をつかむ、という流れをたどります。
書くときには、「書きたい」という気持ちから始まり、頭の中の音を文字に変換し、その文字の形や書き方を思い出し、実際に手を動かして書き、文章として組み立てていきます。
いわば、たくさんの走者がバトンをつなぐリレーのようなものです。どこか一か所でバトンがうまく渡らないと、ゴールまでたどり着くのが難しくなります。そして、どこでつまずいているかは、こどもによって違います。
つまずきの背景を切り分ける
読みの困難さの背景は、大きく3つに分けて考えることができます。
1つは視覚に関わる機能です。視力や両目の使い方、文字を目で追う眼球の動き、見た形を正しくとらえる力などがこれにあたります。
2つめは聴覚・音韻処理に関わる機能で、文字を音に変換する力(デコーディング)が中心です。ここは意外と見落とされがちですが、読みの困難さに深く関わっています。
3つめは、姿勢のバランスや体の協調運動を担う小脳に関わる機能です。読み書きには、実は体の動きも少し関係しています。
書くことの困難さは、音を文字に変換する力(エンコーディング)と、実際に文字を書く運動の機能に分けて考えます。書字の運動面には、鉛筆のコントロール、線を分解して組み立て直す模写の力、文字の形の記憶などが含まれます。また、読みに困難さがあると、書くことにも困難さが現れやすくなります。
ここで大切なのは、書くことの苦手さが「脳の認知の問題」なのか「体の運動機能の問題」なのかを切り分けることです。原因が違えば、効果的な支援も変わります。
支援は「伸ばす」と「補う」の両輪で
読み書きの困難さへの支援にも、力を育てる・伸ばす支援と、苦手さを補う・支える支援の2つがあります。
伸ばす支援としては、文字と音の対応を、見る・聞く・触るなど多くの感覚を使って学ぶこと、読みの流暢さを高める練習、目の動きを整えるビジョントレーニング、手先の器用さを育てるトレーニングなどがあります。能力を伸ばすときに私たちが意識しているのは、できるだけ多くの感覚を使うこと、日常生活と強く結びつけること、そしてできるだけ多くの経験をさせることです。しりとりや粘土遊びのような身近な遊びも、言葉や文字の感覚を育てる大切な機会になります。
補う支援としては、単語ごとに区切って書く分かち書き、行間を広げる、読む行だけが見える道具(リーディングトラッカー)を使う、ルビを振る、読みやすいUDフォントを使う、音声で読み上げる、キーボードや音声入力で「書く」を代わりに行う、といった方法があります。
たとえば、読み書きに強い困難がある一方で、タブレットの操作が得意な子の場合。タブレットでノートをとり、教科書は撮影して読み上げ機能を使い、テストではルビや拡大、時間延長を学校に相談する、といった支援が考えられます。
特に文字を音に変換する力は、トレーニングで伸ばすことが簡単ではありません。力が伸びるのを待っている間に、授業の内容がわからなくなってしまっては本末転倒です。だからこそ私たちは、伸ばす支援に取り組みながら、補う支援も早めに取り入れて、学ぶ機会そのものを失わないことを大切にしています。
学校に配慮をお願いするときは
学校での支援を考えるとき、ひとつの手段になるのが合理的配慮です。障害のある人が困っている社会的なバリアを取り除くために、個別に対応してもらう仕組みです。
学校にお願いするときは、「〇〇してください」と方法を指定するよりも、「音読を練習しても上達しない」「宿題に毎日2時間かかっている」といった事実をもとに、何に困っているのかを伝えるのがポイントです。そのうえで、どのように対応できるかを学校と一緒に考えていきます。
また、高校や大学の入試でも、時間延長や別室受験、ルビ振り、読み上げなどの配慮を受けられる場合があります。ただし、入試直前に申請しても認められないことが多く、日頃から配慮を受けてきた実績が重要になります。早い段階から学校と話し合っておくことをおすすめします。
合理的配慮の具体的なお願いの仕方については、また別の記事で詳しくご紹介する予定です。
おわりに
学習障害による困難さは、努力不足でも、怠けているからでもありません。ただ、外からはとても見えにくいものです。
うまくいかない様子が見られたら、「どうしてできないの?」ではなく、「読み書きのどこに負担がかかっているのだろう?」という視点で見てみてください。原因がわかると、その子に合った学び方が見えてきます。
なお、学習障害については研究が進んでいる分野でもあり、ここでご紹介した考え方も、今後の知見によって更新されていく可能性があります。私たちも常に最新の情報を学びながら、支援に活かしていきます。
ブリリアスでは、WISCやSTRAW-Rなどの検査をもとに、その子に合った学習方法や合理的配慮をご提案するサービスも行っています。お子さまの読み書きについて気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

